Appendix 事例集 産業への応用

A-1.製造業領域における応用事例

製造業の分野では、各種センサデータや音声データなど様々なデータを対象としてディープラーニングが活用されますが、本節では画像データを対象とした事例を紹介します。

1. ものづくり

ものづくりにおいては、検品や欠陥検査の作業を省力化するためにディープラーニングが力を発揮します。昨今では学習に必要な異常データを少なくする手法や、正常データのみで学習させる手法なども様々に進化しており、活用できるシーンが広がっています。

1.1 超音波による溶接部の欠陥検知

日立造船株式会社(2020年)

探勝システムのイメージ


2.廃棄物処理

ものを作る工程だけでなく、ものを廃棄する工程でもディープラーニングが活用されています。

2.1 産業廃棄物の自動選別

株式会社シタラ興産 (2016年~)

稼働中の選別ロボット


3.製造設備の管理

設備の管理・監視においてもディープラーニングが活用されています。中でも、既存の管理システムに影響を与えずに導入できるユニークな監視システムを紹介します。

3.1 計器やランプの読み取り自動化

株式会社IntegrAl (2020年~)

計器を小型カメラで認識


食品の検品におけるディープラーニング活用では、人手を減らすだけでなく、フードロスを減らすという新たな価値を生み出す事例が登場しています。

4.1 食肉加工時のフードロス削減

株式会社ニチレイ (2021年~)

鶏肉の表面に現れる「血合い」


A-2. モビリティ領域における応用事例

公共交通機関におけるディープラーニング活用事例を紹介します。

1.乗客の安全確保

公共交通機関における自動運転の普及のためには、路上だけでなく車内の状況にも目を向ける必要があります。

1.1 自動運転バス車内の遠隔監視

BOLDLY株式会社

バス車内を歩く乗客(頭部)をトレースしている様子


2.運行管理

1台の車両の運行だけでなく、ダイヤの管理にもディープラーニングが活用できそうです。本項では、シミュレータと深層強化学習を用いたユニークな取り組みを紹介します。

2.1 鉄道ダイヤの復旧支援

日本電気株式会社(2023年)

独自開発したシミュレータ「AI学習用鉄道デジタルツイン


A-3.医療領域における応用事例

医療におけるディープラーニング活用には、性能や倫理、認可制度など様々なハードルがありますが、その活用範囲は着実に広がっています。

1.診断支援

診断支援の分野ではディープラーニングの活用範囲が日々拡大しています。医師の負担を減らすことで医師がより高度な作業に時間を割けるようになったり、病気の予兆の見落しが減らせたりする効果はもちろんのこと、これまでにない診断機器が開発された事例や、医師にも難しい病状の進行予測に挑む事例などが生まれています。

1.1 喉の画像を用いたインフルエンザ診断

アイリス株式会社(2022年~)

インフルエンザ検査機器「nodoca🄬」


1.2 関節の変形の進行予測

帝京大学、富士ソフト株式会社(2023年)

変形性股関節症の進行予測AIのイメージ


2.薬の処方における支援

診断だけでなく薬の処方のチェックにおいても、ディープラーニングの活用事例が生まれています。

2.1 調剤の監査システム

株式会社コンテック (2023年~)

調剤の監査システムのイメージ


3.ペットに対する医療

生成AIが、物言わぬペットの状況にアドバイスをもたらすかもしれません。

3.1 ペットの健康アドバイス

株式会社アニポス (2023年~)

保険申請時のデータから生成されるアドバイスのメッセージ


A-4.介護領域における応用事例

少子高齢化により介護サービスの需要が高まる一方、働き手の負担はますます大きくなっています。介護の領域では、ディープラーニングなどを用いた業務改善が期待されます。

1.介護支援

被介護者を手厚く見守りつつ、介護者の負担を減らすための取り組みが始まっています。

1.1 介護用ベッドからの転落等の異常検知

ギリア株式会社、パラマウントベッド株式会社(2020年~)

システムが被介護者の状態を認識している様子


1.2 歩行機能の分析

株式会社エクサホームケア (2022年~)

分析結果の出力イメージ


A-5. インフラ・設備管理の領域における応用事例

全国的にインフラの老朽化が進んでいますが、保守点検の人材不足が懸念されます。ディープラーニングの活用が期待される領域です。

1.点検作業の支援

点検作業へのディープラーニングの活用を考えたとき、多くの場合には点検の対象について学習を行うプロセスが必要で、 すぐに何でも点検できるようになるわけではありません。しかしどの点検作業が特に重要か、もしくは特にリソースを要するかを精査し、影響の大きな点検作業にフォーカスすることで、ディープラーニングを有効活用している事例が多く存在します。

1.1 送電鉄塔の点検

東北電力ネットワーク株式会社/株式会社SRA東北(2019年~)

点検システムの概要図


1.2 化学プラントの配管の劣化検知

三菱ガス化学株式会社、株式会社ABEJA (2022年~)

HILTのアプローチを含む外観検査システムのコンセプト


2.設備の運用支援

点検作業以外にも、設備の運用をサポートする場面でディープラーニングが活用されています。

2.1 ダムの運用支援ツール

国土技術政策総合研究所(2023年~)

LSTMモデルの概要


2.2 作業者の装備のチェック

中部電力株式会社(2021年~)

装備品を検出している様子


A-6. サービス・小売・物流における応用事例

サービス・小売・物流において、ディープラーニングを活用した事例が急増しています。本節では、それらの様々な取り組みについて紹介します。

1.サービス領域への適用

アートやブランドの真贋判定は、属人的になっている領域の一つです。ここでは、ディープラーニング技術を効果的に活用している事例を紹介します。

1.1 真贋判定

エントルピージャパン合同会社(2021年~)

専用端末とアプリでいつでも手軽に真贋を判定


1.2 ロックレス&スマート駐車場

株式会社アイテック、株式会社PKSHA Technology (2019年~)

ロック板がない駐車場


店舗の受付においても無人化が進んでいますが、それを支えている技術がディープラーニングです。

1.3 クリーニング店セルフ受付システム

株式会社エルアンドエー (2021年~)

衣類自動識別システム


2.小売領域への適用

スーパー、コンビニでは購買情報 (POSデータ)のみならず、顧客の動線分析を行うことで商品配置や店舗レイアウトを最適化しています。また、動線分析に留まらずレジなしで商品を購入できる新しい形の店舗も現れてきています。

2.1 動線分析

株式会社トライアルホールディングス (2017年~)

カメラを使って客の移動の流れを解析


2.2 Lawson Go

株式会社ローソン (2020年~)

Lawson Go MS GARDEN店


3.物流領域への適用

物流業界ではeコマースの拡大やオムニチャネル化などの進展によって、多品種少量配送のニーズが高まる中、ドライバー不足等の人材不足が深刻化しています。配送領域のデジタルを活用した効率化はもちろんのこと、庫内での自動化も進んでいる状況です。

3.1 ナンバープレート認識

株式会社モノフル、株式会社フューチャースタンダード (2019年~)

ナンバ認識のイメージ


A-7.農林水産業領域における応用事例

農林水産業におけるディープラーニング活用では、人手不足への対応や熟練者の技能の移転などのほか、これまでになかった付加価値を生み出すことにも活用されています。

1.農業

農業においては、ディープラーニングが省力化だけでなく作物の安全性や品質の向上にも役立てられています。

1.1 ピンポイントな農薬散布による農薬削減

株式会社オプティム

ドローンによるピンポイントな農薬散布の流れ


1.2 果樹の生育支援システム

鳥羽商船高等専門学校(2018年~)

画像からの水分ストレス推定アプリケーション


2.畜産業

畜産業からは、畜産業特有の重労働を回避できる活用事例が生まれています。

2.1 スマホカメラによる豚の体重推定

株式会社コーンテック (2021年~)

体重測定アプリケーション


3.漁業

漁業においては、海の状態を正確かつ迅速に捉えることにもディープラーニングが活用されています。

3.1 漁場における気象衛星の情報を補完

株式会社オーシャンアイズ (2019年~)

タブレット上で稼働する「漁場ナビ」


3.2 赤潮の発生予測

長崎県五島市、長崎大学、KDDI株式会社、システムファイブ株式会社 (2019年)

プランクトンの識別と計数


A-8. その他の領域における応用事例

前節までに紹介した領域以外でも、広くディープラーニングの活用が進んでいます。

1.LLM (Large language Models)活用事例

2023年にブレイクスルーを迎えた大規模言語モデルを活用した事例も出てきています。

1.1 大規模言語モデル

株式会社サイバーエージェント (2023年)

利用イメージ


2.レジャー・エンタメ領域への適用

レジャー領域で顔認証を活用することでユーザーへの利便性を追求した例やエンタメ領域での翻訳事例などもあります。

2.1 マンガの多言語自動翻訳

Mantra株式会社(2020年)

利用イメージ


3.学生による活用アイデアの創出

2020年より開催されている、高等専門学校のディープラーニング活用コンテスト 「DCON」では、学生がコンテストに出した作品から実際にビジネス化や起業に進んでいる事例もあります。

3.1 D-Walk

一関工業高等専門学校、磐井AI株式会社、DCON (2022年)

D-walk


4.自治体での適用

近年自治体での取り組みも活発になってきており自治体DXが進んでいる状況です。

4.1 自治体事例

高山市、名古屋大学、NECソリューションイノベータ株式会社(2022年)


AIカメラを活用した人流計測の様子


今年8月の人流データのグラフ