製造業の分野では、各種センサデータや音声データなど様々なデータを対象としてディープラーニングが活用されますが、本節では画像データを対象とした事例を紹介します。
ものづくりにおいては、検品や欠陥検査の作業を省力化するためにディープラーニングが力を発揮します。昨今では学習に必要な異常データを少なくする手法や、正常データのみで学習させる手法なども様々に進化しており、活用できるシーンが広がっています。
日立造船株式会社(2020年)
- 日立造船は2016年に、管端溶接部を対象とした超音波探傷試験装置を開発していたが、その探傷画像から溶接の欠陥を判定する工程は、検査員が1枚ずつ目視で担っていた。このため、検査コストや検査員への負担が課題となっていた。
- 欠陥検知の処理フローとしては、まずYOLOで探傷範囲を特定 (物体検出)する。次に、対象範囲の画像における欠陥の有無を CNN- オートエンコーダ・画像処理の3種類の方法で判定し、結果をアンサンブルする。アンサンブルにより、ほとんど欠陥を見落ししないレベルまで精度を高めることができた。
- 実際の検査業務に適用した結果、従来比75%の検査時間削減に成功した。
- 日経クロストレンドと日経クロステックが主催する「第二回ディープラーニングビジネス活用アワード」にて大賞を受賞。
ものを作る工程だけでなく、ものを廃棄する工程でもディープラーニングが活用されています。
株式会社シタラ興産 (2016年~)
- ディープラーニングによる画像認識を用いた廃棄物選別ロボットを、業界に先駆けて導入。
- 売上高は導入前の2倍以上に伸びているが、ロボット導入等により人件費は導入前と比べて約10%低減できている。
- 2016年のロボット導入以来2万人以上が見学に訪れており、産廃処理の業界においてロボット導入を推進する事例となった。
設備の管理・監視においてもディープラーニングが活用されています。中でも、既存の管理システムに影響を与えずに導入できるユニークな監視システムを紹介します。
株式会社IntegrAl (2020年~)
- ディープラーニングを用いてアナログメーター、デジタルメーター、ランプなどを認識するカメラを開発。
- 製造業の現場で、計器の監視や見回りの手間を削減する。異常を検知した際にはメール等で通知が送信される。
- 効果の一例として、熱処理加工を行う工場では、週あたり50時間以上の人手を削減できた。夜間や休日の出勤が減り、働き方改革にもつながっている。
食品の検品におけるディープラーニング活用では、人手を減らすだけでなく、フードロスを減らすという新たな価値を生み出す事例が登場しています。
株式会社ニチレイ (2021年~)
- 食肉加工において、鶏肉の血合いは食用しても問題ないものではあるが、不快に感じる消費者もいるという理由から除去している。 しかし血合いは多数出現するため、目視確認に膨大な手間を要していた。また、手作業による血合いの除去は工程上ピンポイントに行うことが難しく、フードロスにもつながっていた。この課題を解決するため、ディープラーニングによる画像認識を用いて鶏肉の血合いを検出するシステムを開発した。
- 本システムでははじめに、鶏肉のてかりを抑えるため偏光フィルタを備えたカメラで鶏肉を撮影する。次に、撮影した画像からディープラーニングによる画像認識で血合いを検出する。最後に、独自開発した機器で血合いを自動的に除去する。
- このシステムにより、これまで食用に使えず飼料や肥料に回されていた鶏肉を、7割削減することに成功した。
公共交通機関におけるディープラーニング活用事例を紹介します。
公共交通機関における自動運転の普及のためには、路上だけでなく車内の状況にも目を向ける必要があります。
BOLDLY株式会社
- ディープラーニングを用いた画像認識により、乗客がバスの車内で移動したことを検知するシステムを開発し、自動運転車両の遠隔管理プラットフォームに導入している。
- 本システムは、バス車内に設置したカメラで乗客を撮影し、車両走行中の立ち歩きを検知して遠隔監視者に通知する。通知を受けた監視者は遠隔でアナウンスを流すなどの対応を行い、乗客の安全を確保する。
- もともと、乗客を真上から撮影できるような車高の高いバスには対応できていたが、開発を重ねることで、車高の低いバスでの斜め上方向からの撮影においても検知を可能にした。
1台の車両の運行だけでなく、ダイヤの管理にもディープラーニングが活用できそうです。本項では、シミュレータと深層強化学習を用いたユニークな取り組みを紹介します。
日本電気株式会社(2023年)
- 鉄道において何らかのトラブルが発生した際、復旧用のダイヤを組む必要があるが、この作業は豊富な知識と経験を持つベテランの作業者を必要とする、難易度の高い作業となっている。この作業を省力化するため、復旧用のダイヤ作成を自動化するシステムを開発した。
- 「混雑の最小化」 「時刻表とのずれの最小化」など様々な指標を報酬関数として取り込んだ深層強化学習によりシステムを実現している。深層強化学習における学習環境として、首都圏の鉄道運行を高精度に再現したシミュレータを独自開発して学習を行った。
- このシステムにより、復旧用ダイヤを数分で作成できるようになった。一部路線での実証検証にも成功しており、今後実用化のフェーズに取り組んでいく。
医療におけるディープラーニング活用には、性能や倫理、認可制度など様々なハードルがありますが、その活用範囲は着実に広がっています。
診断支援の分野ではディープラーニングの活用範囲が日々拡大しています。医師の負担を減らすことで医師がより高度な作業に時間を割けるようになったり、病気の予兆の見落しが減らせたりする効果はもちろんのこと、これまでにない診断機器が開発された事例や、医師にも難しい病状の進行予測に挑む事例などが生まれています。
アイリス株式会社(2022年~)
- 従来のインフルエンザ診断は、鼻の奥に綿棒を挿入するなどの方法で行われることが多かった。また、診断結果が出るまでに時間もかかっていた。この課題に対して、咽頭の画像と体温等の診療情報からインフルエンザの判定を行う医療機器を開発した。
- 延べ100以上の医療機関、1万人以上の患者の協力のもと収集された、50万枚以上の咽頭画像を元に「インフルエンザ濾胞」などのインフルエンザに特徴的な所見を検出するAIモデルを開発した。画像のほかに体温を含む問診情報等を加味し、診断結果を出力する。
- 検査時の痛みが少なく、判定開始から判定結果が出るまでの待ち時間も数秒~十数秒に短縮された。
- 2022年12月より保険適用の対象となっており、更なる普及が期待される。
帝京大学、富士ソフト株式会社(2023年)
- 痛みを伴い歩行に支障をきたす「変形性股関節症」について、進行を予測するAIの研究を実施。
- 股関節のレントゲン画像から、CNNにより特徴量を抽出してベクトル化し、身長・体重等のデータとともに決定木に入力して、股関節の変形が何年後に手術が必要なレベルに達するかを予測する。
- 進行を予測して手術のタイミングを適切に判断することは、患者のQOLの観点からも重要だが、この判断はベテランの整形外科医でも非常に難しい。将来的にはこの研究成果が、手術の判断を支援する整形外科医用のツールとして活用されることが期待される。
診断だけでなく薬の処方のチェックにおいても、ディープラーニングの活用事例が生まれています。
株式会社コンテック (2023年~)
- 薬剤師の負担軽減と調剤の過誤の防止のため、AIを用いた薬剤のチェックシステムを開発。複数の薬局で導入されている。
- 画像のほか、重量やバーコードの情報も用いて、薬剤の種類と量を監査している。
- 独自のAIを活用したシステムにより、新規の薬剤に対する再学習のコストを大幅に低減している。
生成AIが、物言わぬペットの状況にアドバイスをもたらすかもしれません。
株式会社アニポス (2023年~)
- ペット医療の保険請求を行うアプリに、保険請求の情報を踏まえたペットの健康へのアドバイスを生成する機能を開発した。
- 生成AIを用いて文章を生成している。また、ユーザーはアドバイスに対してチャット形式で質問を送ることが可能で、これについてもAIによる応答を実現している。
少子高齢化により介護サービスの需要が高まる一方、働き手の負担はますます大きくなっています。介護の領域では、ディープラーニングなどを用いた業務改善が期待されます。
被介護者を手厚く見守りつつ、介護者の負担を減らすための取り組みが始まっています。
ギリア株式会社、パラマウントベッド株式会社(2020年~)
- 介護の現場では、被介護者の状態を把握し転落等の異常を検知するために、ベッドやベッド周辺にセンサなどの機器を設置するケースが増えている。しかし、検知漏れ防止と過検知防止のバランスをとることが難しく、被介護者や現場への負担が増大する一因となっていた。より高度な検知システムを実現するため、ディープラーニングを活用した。
- 画像認識モデルのほか、複数のAIアルゴリズムを組み合わせることにより、人物の動作を正確に認識。より速く、かつ過検知を抑えたシステムを実現した。
- 今後はプライバシー保護の観点からマスク処理を施すなど、監視されているような抵抗感を被介護者に与えないシステムに進化させていく。
株式会社エクサホームケア (2022年~)
- 高齢者向けの自立支援サービス関連事業者において、動画から高齢者の歩行分析を行うAIアプリケーション 「Care Wizトルト」を展開。
- ディープラーニングによる姿勢推定技術を用いて、高齢者の歩行の様子を認識し、転倒リスクに関する指標で歩行を分析。歩行の様子を5メートル分スマホで撮影してアップロードすると、2分後には分析結果の作成が完了する。
- 大がかりな機材を必要とせず客観的に歩行の評価が実施でき、個々人の歩行機能に合わせたケアの提供に役立っている。
全国的にインフラの老朽化が進んでいますが、保守点検の人材不足が懸念されます。ディープラーニングの活用が期待される領域です。
点検作業へのディープラーニングの活用を考えたとき、多くの場合には点検の対象について学習を行うプロセスが必要で、 すぐに何でも点検できるようになるわけではありません。しかしどの点検作業が特に重要か、もしくは特にリソースを要するかを精査し、影響の大きな点検作業にフォーカスすることで、ディープラーニングを有効活用している事例が多く存在します。
東北電力ネットワーク株式会社/株式会社SRA東北(2019年~)
- 従来、送電鉄塔の腐食劣化度を判定する作業では、目視による点検が主流となっていたが、作業員個人によって判定にばらつきが生じる問題があった。また、多数の鉄塔に対して補修の作業計画を立てるプロセスにも時間を要していた。
- そこで、ドローンまたは専用アプリケーションで送電鉄塔を撮影し、ディープラーニングを用いた画像認識により腐食劣化の度合いを判定するシステムを開発。GPSによる位置情報などもあわせて収集し、統合的な送電鉄塔の保守管理システムを実現した。腐食劣化度の判定だけでなく、補修工事計画の策定も省力化され、社員5人で25時間かかっていた計画策定作業が社員2人・4時間程度で実施できるようになった。
- 国土交通省主催「第4回インフラメンテナンス大賞」において、経済産業大臣賞を受賞。
三菱ガス化学株式会社、株式会社ABEJA (2022年~)
- 化学プラントにおいて腐食配管の放置は重大事故につながる恐れがある。そのため、保守担当者は大量の画像を元に慎重なチェックを行っており、大きな負荷が発生していた。そこで保守担当者の負荷軽減のため、ディープラーニングを用いた配管の外観検査システムを構築した。
- 運転員が配管の画像を撮影すると、システムが腐食箇所と腐食度合いを判定し、記録する。HITL (Human in the Loop) のアプローチを取り入れたシステムとなっており、保守担当者がAIの判定結果にミスを見つけた場合は、システムにフィードバックを行うことでAIを再学習させることができる。
- 当該検査業務において、50%の省力化に成功している。
点検作業以外にも、設備の運用をサポートする場面でディープラーニングが活用されています。
国土技術政策総合研究所(2023年~)
- ダムの運用における安全管理では、目視のほか漏水量・変形(変位) や揚圧力等の各種計測データの監視が異常検知の手段となっているが、今後そのようなノウハウを持った熟練職員が不足することが懸念されている。 ダムの管理経験の少ない職員でも異常発生の判断ができるよう、支援ツールの技術開発を行った。
- ニューラルネットとしてはLSTMを用いている。貯水量や外気温の時系列データを入力とし、変位や漏水量の予測を出力する。ダムに異常が発生していない状態のデータを学習させているため、出力は平常時を想定した予測結果となる。これが実測データと乖離した場合に、異常発生と判定する。
- 2023年9月現在、開発したツールをホームページ上で試験公開しており、全国での活用が期待される。
中部電力株式会社(2021年~)
- 原子力発電所の作業員が放射線管理区域に入る際、安全保護具を装備する必要があるが、従来は鏡や指差し呼称によるセルフチェックを基本としていたため、装備忘れが発生する恐れがあった。ミス防止のため監視役を常駐させることも考えられるが、コストがかかるため、AIによる装備品チェックのシステム開発に取り組んだ。
- 物体検出モデルであるSSDを用いて実装している。学習には3,300枚ほどの画像を用いており、各装備品の検出においてmAPによる評価では0.9以上の精度をマークすることができた。
- 今後はより多くの装備品への展開も期待される。
サービス・小売・物流において、ディープラーニングを活用した事例が急増しています。本節では、それらの様々な取り組みについて紹介します。
アートやブランドの真贋判定は、属人的になっている領域の一つです。ここでは、ディープラーニング技術を効果的に活用している事例を紹介します。
エントルピージャパン合同会社(2021年~)
- アート作品や高価品の真贋判定を行うサービスを提供。美術市場の透明性を高めることを目的としている。
- ディープラーニング技術を活用して、絵画や彫刻の細部に至るまで分析。従来の手法では見逃されがちなディテールの識別が可能に。
- 美術館やギャラリーでの展示前の真贋確認、オークションハウスでの出品前評価、個人コレクターの購入前鑑定など、多岐にわたる場面で利用されている。
株式会社アイテック、株式会社PKSHA Technology (2019年~)
- 鍵やロックの不要なスマート駐車場システムを開発。利便性とセキュリティを高めながら、駐車場の管理と利用を効率化。
- ナンバープレート認識や車両の自動識別にディープラーニング技術を使用。これにより、入出庫の自動化と監視が可能に。
- 様々な車種やナンバープレートのデータを基に学習を行い、認識精度を向上させている。また、継続的なデータ更新により、新しい車種への対応も可能。
- 商業施設やオフィスビル、住宅地の駐車場など、様々な場所での導入が可能。特に、利便性とセキュリティが求められる場所での利用が想定されている。
店舗の受付においても無人化が進んでいますが、それを支えている技術がディープラーニングです。
株式会社エルアンドエー (2021年~)
- クリーニング店において無人受付システムを導入。顧客の利便性を高めるとともに、店舗運営の効率化を図っている。
- TensorFlowを活用し、投資額30万円で実現。ディープラーニングを用いて顧客のアイテムを識別し、適切な処理を行う。また、顧客の好みや過去の利用履歴を分析してパーソナライズされたサービスを提供している。
- 事前にカメラで撮影した約2万5000枚の衣類の画像をTensorFlowで機械学習させた。衣類の種類によって精度は異なるが、Yシャツやズボンは99パーセントの識別精度を実現した。
スーパー、コンビニでは購買情報 (POSデータ)のみならず、顧客の動線分析を行うことで商品配置や店舗レイアウトを最適化しています。また、動線分析に留まらずレジなしで商品を購入できる新しい形の店舗も現れてきています。
株式会社トライアルホールディングス (2017年~)
- 店舗内の顧客動線分析を行うサービスを提供。店舗のレイアウト最適化や商品配置の改善に貢献し、顧客体験の向上を目指している。
- ディープラーニング技術を用いて、店内カメラから得られる顧客の動きのデータを解析。顧客の行動パターンや滞在時間、動線などを詳細に把握することが可能。
- カメラが撮影した動画データはクラウドには送らずエッジコンピュータで処理。通信データ量を800分の1に減らした。
- 定期的にデータを収集し、それに基づいて学習を行う。顧客行動の変化やトレンドを捉え、分析精度を高めている。
- 小売店やスーパーマーケットでの利用を想定。データ分析結果をもとに、商品配置やプロモーションの計画、店舗レイアウトの最適化などに活用。
株式会社ローソン (2020年~)
- Lawson Goは、レジを通さずに商品を購入できる新しい形のコンビニエンスストアサービス。顧客が専用アプリでQRコードをかざして入店し、商品を持って店外に出ると、事前に設定した手段で決済が自動的に完了する。
- 店内設置のカメラで顧客の動きを確認し、商品が置かれた棚の重量センサと合わせることで、顧客がどの商品をいくつ手にとったのかをAIが判別し、店舗を出ると自動的に決済される。
- 商品認識の精度を高めるために、定期的にデータを収集し、学習を続けている。新しい商品や包装変更にも迅速に対応可能。
- 忙しい都市部の顧客や時間を節約したい顧客に特に適している。スムーズで手間のかからない買い物体験を提供し、店舗の効率化にも貢献。
物流業界ではeコマースの拡大やオムニチャネル化などの進展によって、多品種少量配送のニーズが高まる中、ドライバー不足等の人材不足が深刻化しています。配送領域のデジタルを活用した効率化はもちろんのこと、庫内での自動化も進んでいる状況です。
株式会社モノフル、株式会社フューチャースタンダード (2019年~)
- トラックのナンバープレート画像をディープラーニングで認識。荷待ち時間の短縮に貢献。物流施設内のトラックの正確な状態把握によりオペレーション効率化とドライバーの待機時間削減を実現。
- 映像解析AIを活用することで、ナンバープレート検知をより精度よく行うことができる。手法としては、深層学習を用いた画像分類や物体検出を用いている。画像分類では、ナンバープレートの画像を正解データとして用意し、それを元にAIモデルを学習させる。 物体検出を利用すると、画像内に複数の車両が写っている場合でも、それぞれの車両のナンバープレートを個別に検出することができる。
- 交通監視、駐車場の管理、通行料徴収システム、自動車盗難の防止など、幅広い分野での応用が見込まれている。
農林水産業におけるディープラーニング活用では、人手不足への対応や熟練者の技能の移転などのほか、これまでになかった付加価値を生み出すことにも活用されています。
農業においては、ディープラーニングが省力化だけでなく作物の安全性や品質の向上にも役立てられています。
株式会社オプティム
- ドローンによる農薬散布をピンポイントに行うことで、農薬の量を削減した。
- ディープラーニングによる画像認識により、ドローンが撮影した画像から病害虫の発生地点を特定。その地点にのみドローンで農薬を散布する。
- 大豆の栽培における特定の病害虫に対する農薬においては、90%以上の農薬量削減を実現した。
- 通常の動力噴霧器による農薬散布と比べて、作業時間についても90%以上の削減効果を発揮している。
鳥羽商船高等専門学校(2018年~)
- ディープラーニングを用いて、品質の高いみかんを生産する管理システムを開発。
- ディープラーニングにより、果樹の画像から水分ストレスを推定。その結果からかん水(水やり)の量をコントロールすることで、 みかんの糖度の向上につながっている。
- かん水のコントロールは、水分ストレスの推定結果等を入力とした強化学習により実現。
- 実際のかん水作業についてもスプリンクラーで自動化しており、従来比30%の作業時間削減につながっている。
- 糖度の向上により、みかんのブランド (等級) の合格率も上がり、生産者の利益率向上が期待できる。複数の果樹園で実際に導入されている。
畜産業からは、畜産業特有の重労働を回避できる活用事例が生まれています。
株式会社コーンテック (2021年~)
- 養豚場における従来の豚の体重測定は、豚を1頭ずつ体重計に乗せて計測する必要があり、作業に多大な労力を要していた。そこで、 スマホで撮影した豚の画像から、AIが体重推定するアプリケーションを開発した。
- AIによる体重推定は豚の品種を問わず、枝肉重量 (食肉の量) についても推定が可能。人の介在を減らすことで、人材不足をカバーできるほか、人から豚への感染症を減らす効果もあると考えられる。
漁業においては、海の状態を正確かつ迅速に捉えることにもディープラーニングが活用されています。
株式会社オーシャンアイズ (2019年~)
- 漁場の決定に当たり重要な要素である海水温のデータの配信サービス「漁場ナビ」を提供。
- 海水温は気象衛星「ひまわり」が計測したものが配信されているが、雲に隠れた部分などでは海水温のデータが取得できない。「漁場ナビ」はGenerative Adversarial Network (GAN)により、雲に隠れた海域の海水温を推定し、1時間毎に配信する。
- このサービスの活用により漁場探索の効率が上がり、燃料代の削減も期待できる。さらに、海水温などの二次元パターンと過去の漁獲量を学習データとした、漁場そのもののAI予測も提供している。
長崎県五島市、長崎大学、KDDI株式会社、システムファイブ株式会社 (2019年)
- 養殖クロマグロを赤潮の被害から守るため、赤潮を早期に検知するシステムを開発。
- 従来は船舶からの目視で海面の着色状況を監視し、海水を採取して顕微鏡で有害プランクトンの量を計測することで赤潮の発生を判断していた。しかし迅速な対応ができないことが課題となっていた。
- 本システムでははじめに、空撮用のドローンにより養殖を行っている海域の着色を検知する。次に採水用のドローンで複数の深度から海水を採取する。採取した海水にディープラーニングを用いた画像認識を行い、有害プランクトンの識別と計数を行うことで、赤潮の発生を判断する。赤潮発生の可能性がある場合は、漁業者に通知を行う。
- 実証において、採水から漁業者への通知までの所要時間を、従来比98%削減でき、迅速な対応が可能になった。
前節までに紹介した領域以外でも、広くディープラーニングの活用が進んでいます。
2023年にブレイクスルーを迎えた大規模言語モデルを活用した事例も出てきています。
株式会社サイバーエージェント (2023年)
- サイバーエージェントが自社開発した約130億パラメータの大規模言語モデル、ChatGPTのAPIを既存の生成システムに組み合わせることにより、「極予測AI」において「広告コピー自動生成機能」を実装。
- 画像の内容や様々な配信ターゲットに合わせた広告コピーを生成することが可能となっている。
- 結果、「20代女性」のような性別/年齢等のターゲティングに加え、「朝が忙しい働く人」といった特性や状態を指示として受け取ることで、よりターゲットを考慮したテキストを生成することが可能となった。
- オンライン広告の最適化、顧客サポートの自動応答、コンテンツの自動生成、ソーシャルメディア分析など、幅広い業務に応用されている。
レジャー領域で顔認証を活用することでユーザーへの利便性を追求した例やエンタメ領域での翻訳事例などもあります。
Mantra株式会社(2020年)
- 機械翻訳を活用しマンガを複数の言語に効率的に翻訳するサービスを提供。マンガのグローバルな普及と多文化間の理解を促進することを目指す。
- ディープラーニング技術を用いて、テキストだけでなく、マンガの文脈や登場人物の感情を理解し、翻訳の精度を高めている。結果、自然で読みやすい翻訳が可能。
- 大量のマンガデータと翻訳データを用いてモデルを訓練し、継続的にデータを更新して精度を向上させている。特に、スラングや文化的表現に対する理解を深めている。
- マンガ出版社やデジタルコンテンツプロバイダーによって利用され、世界中の読者にマンガを提供している。異なる言語話者間でのマンガの共有と楽しみが広がっている。
2020年より開催されている、高等専門学校のディープラーニング活用コンテスト 「DCON」では、学生がコンテストに出した作品から実際にビジネス化や起業に進んでいる事例もあります。
一関工業高等専門学校、磐井AI株式会社、DCON (2022年)
- 「D-Walk」は、認知症の推定を容易に行うシステム。特に、認知症の早期発見や予防に焦点を当てている。
- ディープラーニング技術を活用して、小型の加速度・角速度センサから得たデータに基づき、認知症の度合いを検知するモデルを開発。1D-CNN (1次元畳み込みニューラルネットワーク)を用いてスコアを学習する。
- 実際の歩行データを用いてモデルの訓練を行い、MCI (軽度認知障害) 判定の正解率が85.5%に達するほどの精度を実現。
- 認知症の予防とモニタリングを目的とする。特に、MCI段階での適切な運動や対処により、およそ40%の快復が期待されるため、この段階での早期発見に貢献することが期待されている。
近年自治体での取り組みも活発になってきており自治体DXが進んでいる状況です。
高山市、名古屋大学、NECソリューションイノベータ株式会社(2022年)
- ICTを活用したまちづくりをテーマとした共同プロジェクトを実施している。地域を元気にする観光DXを掲げ、データ分析による都市の持続可能な発展を目指している。
- ディープラーニング技術等を用いて、観光エリアの交通量や歩行者量、気象データなどを分析し、まちづくりに関する洞察を得て、 より効果的な政策立案や営業戦略が可能となる。
- 収集されたデータの利活用や分析について、様々なステークホルダーが集まり継続的に議論を重ね、データを活用したまちづくりを行っている。
- 具体的に、市内の商店街付近などに計14台 (2023年3月時点)のAIカメラを設置し、時間帯別、性別、年代別、通行人数などのデータを収集・分析し、市内の飲食店に「土曜日の閉店時間を現在よりも30分延長してみたら」と提案したところ、延長した時間帯の売り上げが最大で27%増加した。
- 行政の効率的な意思決定、観光地域の混雑緩和、商店街の営業最適化など、市民生活の質の向上と地域経済の活性化に貢献。